055 カラヤンの影武者、そして代役に 山下一史③

夢はもたなければ叶いません。夢をもっていても、努力しなければ叶わないでしょう…(ディズニー「星に願いを」から)。な、なんと山下少年は大志を抱き、指揮者になる夢を実現させるため中学2年生で上京したのです。住まいは、憧れ…というか、絶対合格しなければ夢叶わぬ桐朋学園…のそばの、トイレも共同で風呂もないようなボロアパート。そこから普通の中学に通った山下少年。「1年間、チェロも弾いたし、勉強もしたし、僕を強くしてくれました!楽しかった!友達一杯出来たし…今でも付き合いがあるんですヨ」。栄えある“桐朋”に合格!よかった~‼

桐朋の大学時代に民音指揮者コンクールに入賞した山下さんは“このままいけるゾ~(=プロの指揮者)”と甘い考えが…とんでもないことに。ベルリンに留学中、再度、民音指揮者コンクールに挑戦!“今度こそ1等を取るぞ‼”…と思いきや2次で落ちた→挫折→逃げるようにベルリンに戻る→奈落。

そこにやって来た先輩指揮者高関健さん(カラヤン指揮者コンクール・ジャパンで優勝後、カラヤンのアシスタント)が“僕は広響(広島交響楽団)の音楽監督に就任するので日本に帰るから、カラヤンのアシスタントを君!やってみない⁉”もうプロの指揮者になれないんじゃないか、このままヨーロッパで腐るんじゃないかと思っていた山下さんに“蜘蛛の糸、それも金色に輝く蜘蛛の糸”が絡んできた…人生、きりっきりっのところで最高の出会いがあったのです‼

“急病のカラヤンの代役としてジーンズ姿のまま第九を指揮”このジーンズ姿が信じられなくて聞いてみた…

「ジーンズって言っても、ブルーの(かつてジェームス・ディーンがはいて世界の若者を虜にした、ヨッサンも愛用していた)ジーンズじゃありません。黒色。何で黒かというとカラヤンのアシスタントとして、ⅤTR撮りに付き合って、カメラリハーサルで(カラヤンに代わって)指揮する、結局“影武者”ですわ。撮影中に上から(カラヤンがベルリンフィルを指揮した演奏が)降ってくる…それに合わせて学生オケを僕が(カラヤン役として)指揮する訳です。(その指揮振りをカラヤンが見ている)そんなカラヤンはいつも黒ずくめ…その同じ格好で一週間着たきり雀だった(匂いそうな⁉)、そんな山下さんにとんでもない話が突如舞い込んだ。

「カラヤン(ベートーヴェン第九)演奏会に僕はお客として、この格好(黒ジーンズ、黒セーター)で行ったら、(本番30分前に)ステージマネージャーが血相変えて飛んできて“すぐ電話に出ろ‼”そうすると、カラヤンの専属マネージャーが“今から言うことに、君はイエスかノーしか言ってはいけない。(なんだろう??)カラヤンは病気だ。今日の演奏会は振ることはできない。ドクターストップで。カラヤンはヤマシタにやらせろと言ってるが、君はイエスかノーか!??”そりゃアシスタントやるからには全部暗譜して勉強してますから、ノーと言えなかったです…後から震えましたけど」と言ったとたんに楽屋に閉じ込められた山下さん。

「感動的だったのは、ステージマネージャーの態度がガラッと変わるわけですよ。あれってプロですネ。それまで僕は学生だから、いつものアシスタントやってる“坊や”。それが急に“指揮台はどうしますか?後ろのバー(背もたれ)はどうしますか?”本当に真顔で、指揮者として遇してくれたんです。それがどれだけ自信を与えられたか!一人前のマエストロとして扱ってくれたんです」

果たして、リハーサルなしの第九…万雷の拍手の嵐‼第九のスピリッツ…苦悩から歓喜が湧きあがった…ウソのようなホンマの話でした。(よしかわ・ともあき FM大阪くらこれ企画プロデューサー)

055yamashita

ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と山下一史さん

2003年6月13日、豊中市のザ・カレッジ・オペラハウス

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