052 野球の実況中継もしたアメリカ人指揮者  レナード・スラットキン

東北関東大震災…あまりにも激烈な惨状を見せ付けられ、今だ石のように立ちすくんでいる自分に気がつくことがあります。これはいけない、立ち上がらなくては…。

16年前のあの時、1995年1月17日に襲った阪神淡路大地震の数日後、Kクラシック音楽事務所のYさんから電話があった。“吉川さんネ!アメリカのセントルイス交響楽団が、すぐにでも何かお手伝いしたい!と電話がありましたんや。神戸の演奏会場と日時が決まったら、司会たのんます…”

1カ月後、いまだJRで大阪から三宮への道が閉ざされたヨッサンは、やっとこさ三田に着くや、三田線に乗り換えコトンコトンと谷上から新神戸へ。3、4時間かけてやっとこさ演奏会場の新神戸オリエンタル劇場へ。大型バスに揺られ、指揮者レナード・スラットキンに率いられたセントルイス交響楽団の一行も到着。いよいよ被災者への生音による温もりコンサートが始まりました。あの時、醸し出されたバーバーのアダージョの調べと神戸の被災者のすすり泣きは、忘れえぬ時空としてヨッサンの心に刻まれています。

さて、そんなマエストロ・スラットキンとは今から25年前の1986年11月にマイクを向けました。(この時はあの大阪が生んだ天才ヴァイオリニスト五嶋みどりの凱旋公演としても話題になりました…それは何故かは次回)

レナード・スラットキンは親父さんも有名な指揮者だったんですが、親父を凌ぐ指揮者へと登りつめたお人。なんてったって当時のセントルイス交響楽団をアメリカ5大オーケストラへとのし上げた“手腕”の持ち主。この御仁…実はとんでもない趣味の持ち主でもあります。それは“大リーグのベースボール実況中継”

マイクを向けてみると…。S:スラットキン Y:ヨッサン

Y「僕はベースボールが大好き(…と、間髪を入れずに“アハァ‼”とマエストロ)ですが、日本とアメリカの野球の違いは何ですか?」

S「あまり違わないと思うネ。むしろ違うのはお客さんの方で、日本のお客さんはアメリカのフットボールファンのように大騒ぎする。アメリカのお客さんはもう少し静かです(イタタタ…)」

Y「野球の実況をやってらっしゃるそうですが、どんな感じなんですか?」

S「それじゃ、その例をやってみましょう。か!!?」。な、なんとマエストロがマイクに向かって実況アナのポーズで喋り出すではありませんか‼

S「ここ、セントルイス・カージナルスのスタジアムは超満員。おっと、相手ピッチャーは2つ目のファールボールだ。この3回のイニングで65球も投げている!くたびれているんだろう。もうすぐリリーフが出てくるんじゃないだろうか…⁉」。うまいもんや‼

何故、野球の話から入ったのか…野球にもチームカラーがあり、オーケストラにもオーケストラのカラーがあります。色んなオケを客演する時、どうコントロールされているか?

S「例えば、貴方がよその家に行ったとしますネ。貴方はお客さんですから、その家の造りや家具をどうこうしたりしません。あの額縁の絵が嫌いだと言って外したり出来ないでしょ。その家の雰囲気の中で、いかに気持ちよく過ごせるかを考えます。オーケストラも同じなんです。そのオーケストラの環境を楽しみながら、自分の存在というものを向こうが感じてくれる様に、つまり、解釈によって、そのオーケストラの環境が豊かなものになるように…という風に考えます」

さっきのネアカな実況アナの瞳が、まさに指揮官のそれに変わっていきました。さて、すったもんだの末に決まった4月12日のプロ野球開幕。監督(指揮官)は被災者の皆さんへ、どれだけ抱えきれない勇気と元気を与えることが出来るか…手腕が問われます。(よしかわ・ともあき FM大阪くらこれ企画プロデューサー)

052prokofiev

L・スラットキン指揮、セントルイス交響楽団のCDジャケット

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